【新聞掲載記事】はばたく中小300社 ヨシダ-生産性向上により選定(溶接ニュース 令和元年8月6日)
グローブボックスは外気を遮断した状態でステンレス製のボックス内を負圧管理して作業者が容器の外からグローブを介して安全に取り扱うことができる装置だ。医療機関や研究機関、原子力関連施設など様々なシーンで用いられ、高い気密性と耐震性が求められる。ヨシダ(茨城県水戸市・吉田陽子社長)は自社内に設計・機械加工・製缶溶接の3部門を有し、顧客の仕様に応じた製品を提供する。
原子力施設用各種装置やエネルギー関連機器、精密機器部品を製造するヨシダは1923年の創業。従業員は65人。61年からグローブボックスなど原子力向け機械加工・製缶溶接機器の設計・製作をメーンに事業展開を図ってきた。
昨年夏には、敷地面積約1万4千平方メートルの第2工場が完成。30トンクレーンや5面加工機などを導入したことで大型製缶、大型機械加工が可能な工場への転換も果たし受注案件の幅も広がった。また自社工場内にはWiFi環境を整備するなど稼働状況の見える化により生産性向上に取り組んでいる。
原子力施設向けグローブボックスの製造は、通常の金属製品を遥かに超える厳格な品質管理を必要とし、膨大な量の生産管理履歴(トレーサビリティ)データを抱える必要がある。発注者立ち合いのもとでの材料検査や材料の工程管理、厳しい溶接品質や非破壊検査が求められる。
ヨシダでは一般的な研究施設でみられるような小型グローブボックスと異なり、長さ15メートルを超えるようなグローブボックスや中型のグローブボックスをつなげた10連型の大型グローブボックスなど顧客の要望を受けたオーダーメードを中心に請け負っている。
こうした一品一様のものづくりを進めてきた結果、設計から溶接、製缶、機械加工、組立、試験、納品まで自社完結する社内体制の構築に至った。
グローブボックスは、真空チャンバーと異なりグローブやポリカーボネートパネルなどの非金属部分とステンレス函体の接触面からのリーク(漏れ)が起こりやすい。そこで、内部の放射性物質の漏出や拡散の防ぐため、溶接部の気密性はもちろん、ステンレスの溶接公差を最小限にとどめ、ボックス内が常に一定の負圧になるような高いレベルでの圧力管理技術も必須だ。
現在、同社が手掛ける「自己洗浄能力を有する高機能次世代グローブボックスの開発」が注目をお集める。これはグローブボックス内で放射性物質を扱ったときに内部付着したものを自動で洗浄するシステムだ。汚染水を生んでしまうため水を使用することができないなど制約条件が多いなか、産業技術総合研究所などと金属積層造形装置の粉体管理を応用した技術を用いて開発を進めている。
また、高い放射線を扱うための、遮蔽付きグローブボックスで培った知見は、他産業で用いる製品への展開を図ること可能だ。今後、原子力関連事業を主力としつつエネルギー関連事業やグローブボックスの更なる高付加価値化へと可能性は広がっていく。