【新聞掲載記事】放射性物質扱う箱 グローブボックス特集(読売新聞 平成31年2月17日)
密閉空間で放射性物質を扱う「グローブボックス」。水戸市にあるヨシダの主力製品は、東京電力福島第一原発の核燃料デブリ(残骸)を研究する日本原子力研究開発機構の大熊分析・研究センター(福島県)など、原子力施設で不可欠だ。
連結した手袋部分に手を入れ、外気を遮断しながら箱の内部で作業しなければならない。放射性物質を扱えるグローブボックスは高い気密性が求められるため、生産しているのは国内でも6社程度とされる。
ゆがみや隙間のない高い製缶溶接技術が誇りだ。気密性だけでなく、内部にもこだわりがある。放射性物質が付着、蓄積しないように曲面加工、鏡面仕上げとし、四隅には丸みを残した自社特性のパーツを使う。四隅が角張っていると清掃しにくいからだ。「プロの集まりです」と取締役の米川周佑さん(34)。大手と比べ、設計から製造まで様々な工程に関わることができ、技術者のやりがいにつながっているという。溶接技術を競う県コンクールで最優秀賞に輝いた従業員もいる。
「原子力産業とともに育った」との自負もある。かつて日立製作所の下請けとして機械加工を行っていた。1961年、前社長が旧動力炉・核燃料開発事業団から、それまで輸入品頼みだったグローブボックスの生産を相談されたことで受注が始まった。
福島第一原発事故で原子力産業・研究を取り巻く環境は一変し、一時は年間10億円前後で推移していた売上高が半減。しかし、これを転機に新たな分野への応用も図っている。水や酸素などの混入を防ぐ必要があるリチウムイオン電池、医療・バイオ分野、3Dプリンター向けグローブボックス・・・。これらの研究開発はすべて、グローブボックス製造で培った高い密閉技術が生きている。顧問の米川茂さん(67)は「アイソレーション(分離)という放射性物質の管理に求められることと重なった」と話す。
昨年、高さ12メートル、重さ30トンを釣り上げられるクレーンを導入した第2工場を稼働させた。「『不可能を可能に』をスローガンに、ものづくりで社会貢献したい」と周佑さん。技術力で新たな扉を開こうとしている。